東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)173号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨、実用新案登録請求の範囲の記載に同じ。)及び三(審決の理由の要点)の事実が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取り消すべき事由の有無について判断する。
1 請求の原因四のうち1の(一)(Bの構成も引用例記載のものに対する本願考案の特徴をなしているとの点は除く。)及び(二)の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、前記認定に係る本願考案の要旨並びに成立に争いのない甲第三号証(昭和六一年一月二四日付手続補正書、全文訂正明細書及び第4図)及び第六号証(右全文訂正明細書に係る第1ないし第3図)を総合すると、本願考案は、金属板状体からなるスラツトの長手方向上縁に曲成した外巻状係合片と長手方向下縁に曲成した内巻状係合片とによつてインターロツク部を形成したスラツトを上下方向に連綴して構成したシヤツターカーテンにおいて、その断熱及び蔽音効果を確保し、シヤツターカーテンの巻取り及び繰出し時におけるスラツトの金属部分相互間の当接に起因する騒音や傷の発生を防止する技術に関するものであること、この点に関する従来技術としては、後記の引用例記載のものにおけるように、シヤツターカーテンの一側面全域に弾性材を一体的に固着するもの等が存するが、これらの技術にも、シヤツターカーテンの巻取り及び繰出し時にスラツトがインターロツク部を枢支点として揺動することに伴い弾性材が剥離、破損する等の欠点があつたこと、本願考案は、これらの欠点を解消することを技術的課題として、スラツトの裏面に、内巻状係合片を除く部位から外巻状係合片の外側に臨む曲成部位に跨つて弾性材を固着して(Aの構成)該弾性材を裏面視において上下方向一連状となるように形成する(Bの構成)ことにより、シヤツターカーテンの巻取り及び繰出し時におけるスラツトの金属部分相互間の当接に起因する騒音や傷の発生を防止し((a)の作用効果)、シヤツターカーテン閉鎖時における断熱及び蔽音効果を保持する((b)の作用効果)とともに、シヤツターカーテンの巻取り及び繰出し時におけるインターロツク部の円滑な回転を確保し、かつ、インターロツク部を枢支点としてスラツトが揺動することに伴う弾性材の剥離、破損を防止する((c)の作用効果)との作用効果を得ようとしたものであることが認められる。
2 一方、引用例には審決摘示(審決の理由の要点2)のとおりの記載があり、その「金属板4」、「合成樹脂面5」はそれぞれ本願考案の「金属板状体」、「弾性材」に相当すること、本願考案と引用例記載のものとは、「金属板状体からなるスラツトの長手方向上縁に曲成した外巻状係合片と長手方向下縁に曲成した内巻状係合片とによつてインターロツク部を形成したスラツトを上下方向に連綴して構成したシヤツターカーテン」に関し、当該スラツトの裏面に弾性材を固着してなる点では一致し、弾性材の固着態様につき、本願考案では、弾性材を内巻状係合片を除く部位から外巻状係合片の外側に臨む曲成部位に跨つて固着したのに対し、引用例記載のものでは、これをスラツトの全面に固着した点では相違することは、当事者間に争いがない。
3 原告は、まず、取消事由(1)として、審決が、Aの構成とBの構成を分離したうえ、本願考案と引用例記載のものとの相違点としてはAの構成のみを挙げ、Bの構成については引用例記載のものとの一致点として認定判断した点の誤りを主張するので検討する。
確かに、前記認定に係る本願考案の実用新案登録請求の範囲の記載をみると、本願考案の特徴として「スラツトの裏面には、内巻状係合片を除く部位から外巻状係合片の外側に臨む曲成部位に跨つて弾性材を固着して(Aの構成)該弾性材を裏面視において上下方向一連状となるように形成した(Bの構成)」点が挙げられており、右記載によれば、本願考案の装置では、シヤツターをおろし、上下に連綴するスラツトのインターロツク部(係合部)を裏側から観察すれば、下部のスラツトに固着された弾性材の最上端(すなわち、右スラツトの外巻状係合片の外側に臨む曲成部位に跨つて固着された弾性材部分)と上部のスラツトに固着された弾性材の最下端(すなわち、右スラツトの内巻状係合片に至る直前の部位に固着されている弾性材部分)の間に、隙間がなく両スラツトに固着された弾性材が一連のものとして把握されるように構成されるものであることが認められる。このように、本願考案は、スラツトの裏面の一部に弾性材を固着しない構成を採用するものであるにもかかわらず、弾性材の具体的な固着態様をAの構成のとおりにすることによりBの構成のように弾性材を上下方向一連状に形成するのであるから、審決が、本願考案のAの構成とBの構成を分離したうえ、本願考案とスラツト裏面全面に弾性材が固着され裏面視において当然上下方向が一連状となる引用例記載のものとの相違点としてAの構成のみを挙げ、Bの構成については引用例記載のものとの一致点として認定判断した点は、必ずしも当を得たものとはいいがたい。
しかしながら、前記のとおり、Bの構成はAの構成により形成されるものとされている点からすれば(原告は、審決を取り消すべき事由2(三)において、Aの構成はBの構成を実現するための技術的手段であるとする。)、Aの構成に関する検討判断には必然的にBの構成に関する検討判断も含まれるということができ、その意味では、審決においても、実質的にはBの構成についての検討判断をしているものとみることができるから、審決における本願考案と引用例記載のものとの一致点及び相違点の認定判断の手法に不適切な点があつたとしても、その点のみで審決を違法とすることはできないし、また、A及びBの構成を本願考案と引用例記載のものとの相違点として検討判断を加えたとしても、本願考案の進歩性の判断が何ら左右されるものでないことは、後に認定説示するところからも明らかである。なお、シヤツターカーテンを正巻きに設置した場合には、Aの構成のみでは、シヤツターカーテンの巻取り及び繰出し時におけるスラツトの金属部分相互間の当接に起因する騒音や傷の発生を防止する((a)の作用効果)ことはできず、内巻状係合片側の部位の弾性材の固着範囲がBの構成のとおりに限定されてはじめて右(a)の作用効果を達成し得るものである旨の原告の主張について検討しておくに、前掲甲第三号証及び第六号証によれば、本願考案において、Bの構成に限定せず、例えば、上下に連綴するスラツトの上部のスラツトの最下端を若干上方へずらし、裏側から観察して上下のスラツトの弾性材の間に隙間があつても、正巻きの場合に(a)の作用効果を奏し得ないではないことがうかがえるから、Bの構成に限定することが、(b)の作用効果実現のために必要であるといい得ても、(a)の作用効果を得るために必ずしも必要であるものとは認めることができないから、右の原告の主張は採用できない。
4 次に、原告は、取消事由(2)として、本願考案における前記A及びBの構成が一体として引用例記載のものとの相違点をなすと認定されるべきであるとしたうえで、右A及びBの構成が容易に想到し得るものではなく、また、これによつて奏せられる作用効果も予測可能なものではない旨主張するので、この点について検討する。
前記2及び3において認定説示したところに成立に争いのない甲第二号証(引用例)を総合すれば、引用例記載のものは、スラツトの裏面全面に「合成樹脂面5」(本願考案の「弾性材」に相当する。)を形成することにより、「金属面4」(本願考案の「金属板状体」に相当する。)同士の直接の当接を回避して、シヤツターカーテンを開閉する際の騒音を防止するとともに、合成樹脂の弾性によつてスラツトの損耗を減少させて耐久性を高めること等を目的とするものであつて、その本願考案との構成上の差異は、弾性材の固着態様につき、本願考案では、弾性材を内巻状係合片を除く部位から外巻状係合片の外側に臨む曲成部位に跨つて固着して該弾性材を裏面視において上下方向一連状となるように形成したものであるのに対し、引用例記載のものでは、これをスラツトの全面に固着するものである点にのみ存することが認められる。したがつて、引用例記載のものにおいても前記(a)の作用効果が奏せられるものである点では本願考案と何ら変りはなく、また、引用例記載のものも、結果的には、弾性材が裏面視において上下方向一連状となつているものであるから、本願考案と同様、前記(b)の作用効果が奏せられるものである。
しかして、本願考案の作用効果上の特徴は、前記1認定のとおり、引用例記載のものにはみられない(c)の作用効果を奏するのみでなく、あわせて(a)及び(b)の作用効果をも奏し得る点にあり、これが、前記A及びBの構成を採用したことによるものであることは明らかである。
ところで、引用例記載のものにおけるような構成のシヤツターカーテンにおいて、審決指摘のように、スラツトとスラツトとの係合部では相互の揺動により弾性材が剥離、破損することが予測され、その場合に当該部分には弾性材を固着しないことでその問題を解決することが当業者が容易に想到し得る事柄であることは当事者間に争いがないから、引用例記載のものにおいて、前記(c)の作用効果を得るために右のように係合部に弾性材を固着しないとの手段を講ずる際に、その具体的な弾性材の省略方法につき、(c)の作用効果についてのみならず、(a)及び(b)の作用効果についても考慮して、これらの作用効果をも損なうことがないように、弾性材の省略部分が可及的に少なくなるように構成することは、具体的な設計に当たつて当業者において当然配慮すべき事柄にすぎないものというべきである。そして、本願考案及び引用例記載のもののシヤツターカーテンの具体的構成との関連でこれをみると、該シヤツターカーテンが「金属板状体からなるスラツトの長手方向上縁に曲成した外巻状係合片と長手方向下縁に曲成した内巻状係合片とによつてインターロツク部を形成したスラツトを上下方向に連綴して構成」したものであることは前記認定のとおりであり、右の構成のシヤツターカーテンにおいて、インターロツク部においては、スラツトの内巻状係合片の裏面は同係合片の曲成が始まる部位付近から下方に向け隣接する外巻状係合片の裏面との接触が始まり、その接触状態は内巻状係合片の先端まで至り(別紙(四)図面中赤で着色した部分)、他方、外巻状係合片の裏面は、スラツトがインターロツク部を枢支点として揺動するものであることを考慮に入れると、その先端から外側(裏面)に臨む曲成部の直前付近までは(同図面中青で着色した部分)隣接の内巻状係合片の裏面と接触することがあり得るが、同部位付近から下方は同係合片と接触するおそれがないことが認められる。
そうであれば、引用例記載のものにおいて、(c)の作用効果を得るため、裏面全面に弾性材を固着する構成に代えて、連綴するスラツトのうち、インターロツク部において相互に接触状態にある部分を除いて弾性材を裏面に固着すること、これを一つのスラツトについていえば「内巻状係合片を除く部位から外巻状係合片の外側に臨む曲成部に跨つて弾性材を固着する構成」、すなわちAの構成を採用することに格別の困難があるとは認められないし、かつ引用例記載のものにおける(b)の作用効果を確保するため、スラツト裏面に固着された弾性材を前記3に述べたような意味において上下方向一連状に形成し、Bの構成を採用することは、両スラツトの係合状態からみて、さして困難なこととも認めがたい。また、本願考案の構成によつて奏せられる(a)及び(b)の作用効果を確保したうえで(c)の作用効果を得るとの作用効果も当業者の予測を超えるものとはいいがたいものといわざるを得ない。
なお、原告は、審決指摘の「スラツトとスラツトとの係合部には弾性材を固着しない」との技術的手段を講ずる場合における弾性材の省略方法につき、成立に争いのない甲第四号証(別紙(三)図面(1))及び第五号証(同図面(2))に示すように、スラツトの長手方向上下縁の各係合部(インターロツク部)の弾性材を省略するのが通常であるとして、それを前提に本願考案の構成の困難性及び作用効果の顕著性を主張するが、引用例記載のもののように(a)及び(b)の作用効果を奏し得るものに対して前記手段を講ずる場合には、前記のようにこれらの作用効果を損なうことがないように弾性材の省略部分を可及的に少なくしようとするのがむしろ通常であるというべきところ、原告主張の甲第四及び第五号証の例は、かかる観点よりすれば、省略の必要のない部位の弾性材をも省略するものであるから、これが通常の例であるとする原告の主張は採用しがたく、そうである以上、右主張を前提とする原告のその余の主張も採用できないものといわざるを得ない。
5 このようにみてくると、原告主張のように本願考案のA及びBの構成が一体として引用例記載のものとの相違点をなすものであることを前提にして検討判断しても、本願考案は引用例記載の事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、これと同旨の審決の認定判断はその結論において正当であつて、審決にはこれを取り消すべき違法の点はない。
三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編注〕本願考案の要旨は左のとおりである。
金属板状体からなるスラツトの長手方向上縁に曲成した外巻状係合片と、長手方向下縁に曲成した内巻状係合片とによつてインターロツク部を形成したスラツトを上下方向に連綴して構成したシヤツターカーテンにおいて、上記スラツトの裏面には、内巻状係合片を除く部位から外巻状係合片の外側に臨む曲成部位に跨つて弾性材を固着して該弾性材を裏面視において上下方向一連状となるように形成したことを特徴とする騒音防止機能を備えたシヤツターカーテン。